公開日: 2025年12月某日 / カテゴリ: 引越し現場, 東大阪市, リピーター
おはようございます。いまだ運送です。
東大阪の朝は、人の暮らしの匂いが濃い。洗濯物の香り、パンの匂い、子どもたちの支度の声。そんな生活の音に包まれながら、軽トラックのエンジンをかけた。今日のご依頼は、東大阪市から東大阪市まで。同じ市内の短距離移動だが、短い距離でも“物語”の長さは関係ない。むしろ近所の引越しには近所ならではの味がある。
玄関前に立ったお客様は、にこやかで穏やかな方だった。「以前は娘の引越しでお世話になりましたね」そう言ってくださった瞬間、記憶がよみがえった。
あの日――娘さんは新しい生活に胸を弾ませるように、小さな段ボールをぎゅっと抱えていた。明るいけれど、どこか不安もにじませた表情。それを包みこむようにお母さまがにこにこしていた。あれからどれくらい経っただろうか。時間は過ぎても、人との縁は消えない。そして今日は、そのご家族の“もうひとつの節目”。今度は息子さんの引越しだという。
■「いい仕事してたら繋がっていくんやねぇ」
「いい仕事してたら繋がっていくんやねぇ」お客様が冗談交じりに言う。それを聞いた私は、ただただ嬉しくなった。いまだ運送という名前を、家族の中で覚えていてくださったこと。また呼んでもらえたこと。同じご家族のなかで違う生活のスタートに立ち会えること。これは引越し屋として本当に幸せな瞬間だ。
息子さんは娘さんとはまた違う雰囲気の青年だった。落ち着いていて、口数は少なめ。けれど、荷物の扱い方が丁寧で、こちらから指示を出さずとも次に必要な動きを察してくれるタイプ。こういう方は引越しがとてもスムーズになる。なんというか、“呼吸が合う”のだ。
玄関から見える段ボールはそこまで多くはない。シンプルな家具、必要最小限の生活用品。生活がまだ軽く、未来へ向けて空白が多い。そんな荷物の並びは、これから先の広がりを感じさせる。
■軽トラックだからこそ活きる東大阪の路地
東大阪の住宅街は道が細いところもあり、軽トラックが入るにしても慎重さが必要だ。しかし、私は軽トラ専門だ。狭い道はお手の物。大手さんの大きいトラックでは入れない路地でも、軽トラならスッと寄り添うように到着できる。お客様にとっては“助かった”と思っていただけるし、私にとっては“いつものこと”でもある。こういうところが、軽トラ引越しの強みだ。
搬出作業は息子さんも積極的に手伝ってくださった。「これ持ちます」「次はそっちを運びます?」まるでチームのようだった。
娘さんのときは、どちらかというと私が流れを作り、娘さんがそれに合わせてくれるような形だった。しかし息子さんは力作業にも慣れていて、階段の上り下りも早い。その姿を見て、お母さまが少し誇らしげに微笑んでいた。「この子、家ではあまり動かないんですけどねぇ」そう言いながらも、息子さんの成長を感じている様子が伝わってくる。
引越しの仕事をしていると、家族の空気がよく見える。普段の生活の中では気づかない距離感や、兄弟姉妹の性格の違い、家族がそれぞれ抱えている思い。それが引越しという“節目”の場面には自然とにじみ出てくる。今日は、それがとても温かい形で目の前にあった。
■選ばれる理由、それは「誠実さ」の積み重ね
搬出が終わり、軽トラックに荷物を収めながらふと思った。同じご家族を2回お手伝いするということは、当たり前ではない。選ばれるのには、必ず理由がある。
「前の引越しのとき、すごく良かったから」お客様がそう言ってくださった。
いまだ運送は、立派な会社でもない。営業マンもいないし、トラックは軽トラ1台。現地見積りもせず、電話やLINEだけで済ませている。段ボールもお客様にご用意いただく。一人で運べない大きな荷物はお客様と一緒に運ぶ。大手のような豪華さも、広い倉庫もない。
でも――“良い仕事”とは、設備の豪華さでも人数の多さでもない。お客様の不安を取り除き、その瞬間の笑顔を作ること。誠実に、丁寧に、その場に向き合うこと。それを積み重ねた結果が、今日へ繋がっているのだと思えた。
中央区や西区の大都会とは違い、東大阪は“生活の匂いが色濃い街”だ。だからこそ、人との距離も近い。「誰に頼む?」「この前良かったとこあるで」そんな会話が普通に起きる。その輪の中に、いまだ運送が入っていることが嬉しかった。
■これからも繋がる“縁のひとつ”
新居に荷物を運び入れると、息子さんの部屋は真新しく、シンプルで静かな空間だった。カーテンレールの位置、ベッドの向き、冷蔵庫の置き場所。細かいポイントを確認しながら配置していくと、部屋はだんだん“生活”の形を帯びてくる。
「これで全部です」
「助かりました、本当にありがとうございます」
お礼の言葉をいただいたとき、ふと胸に温かいものが広がった。娘さんを送り出し、息子さんも新しい生活へ。家族の中の二つの節目に、いまだ運送が立ち会えた。それは偶然ではなく、選んでいただいた結果だ。
軽トラックのドアを閉め、深く頭を下げる。「ご利用ありがとうございました。」
トラックを走らせながら思う。荷物を運ぶという作業の裏側には、必ず人の物語がある。ただの“仕事の一つ”ではなく、これからも繋がっていく“縁のひとつ”。
いい仕事をしていれば、本当に繋がっていく。今日そのことを、また一つ確かに感じた。

