「人生を運ぶ」という感覚 ― 川西市(介護施設)から猪名川町への引越し記録と、現場で考えたこと

公開日: 2025年12月某日 / カテゴリ: 引越し現場, 介護施設引越し, 人生観

こんにちは。

いまだ運送です。

川西市から川辺郡猪名川町まで──。この日は、ただの引っ越し作業では終わらない、胸の奥にずしんと残る一日になりました。

引越業という仕事をしていると、いろんな人の暮らしに触れます。部屋の間取り、家財の量、荷物の扱い方、生活スタイル、何十年と積み重ねてきた人生の名残。そのすべてが、ご依頼ごとに違う物語を持っています。

ですが、この日の現場は、いつも以上に「人生」という言葉が頭の中にぼんやり浮かんだまま離れませんでした。


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■介護施設で広がっていた光景

引越先は猪名川町。荷物の搬出は川西市の介護施設。玄関をくぐった瞬間、日常から少しだけ離れた世界に入ったような空気がありました。

静かで、整っていて、スタッフさんの声は柔らかくて、それでいてどこか張りつめた緊張感がある。介護施設特有の空気です。

廊下を歩いていると、腕に高価な時計をつけている入居者さんがいました。おそらく若い頃に買ったものなのか、家族が贈ったものなのかは分かりません。でも、キラッと光るその時計は、その人が歩んできた時間の重さを語っているように見えました。

「人はどんな人生を生きてきたのだろう…」

ふと、そんなことが頭によぎる。

高級時計はただの物ではありません。思い出や努力や誇りが詰まっている。それを失くさずに腕につけ続けるその方の姿は、どこか凛としていて、時間を大切にしているように見えました。

■警察官、救急隊、そして医師が一度に揃う時

施設内を行き来していると、別の部屋の前に人が集まっているのが見えました。

警察官、救急隊、そして医師。その3つが同じ場所に揃うというのは、私たちの仕事ではなかなか見ることのない場面。作業中ではありましたが、その張りつめた空気は、離れた位置にいてもひしひしと伝わってきます。

しばらくすると、白い袋にくるまれた担架が、静かに運ばれていくのが見えました。

誰も声を荒げない。誰も泣き叫ばない。ただ、深い静けさの中で、その人の最後の道のりを見送っているような、そんな空気。

私たちは作業手を止めません。でも、心の中ではずっと考えてしまう。

  • 「人の人生って、どこで区切りがつくんやろう」
  • 「今日まで生きてきて、ここで最期を迎えたんやな…」

その瞬間の空気は、作業中にもかかわらず、じんわりと胸に沁み続けました。

■引越という仕事が、ほんの少しだけ違う意味を持った日

荷物を運び出し、トラックに積んで、猪名川町へ向かう道中、普段とはまったく違う静かな気持ちで運転していました。

引越という仕事は、誰かの「生活の節目」を手伝う仕事です。

喜びの引越、不安の引越、仕方なくの引越、新たな挑戦の引越、何かから逃れるための引越。

そして、人生の終わりに向けて整えるための引越もある。

だからこそ、目の前の荷物はただの荷物ではなく、その人がこれまで生きてきた“証”のように見えることがあります。

この日の作業はまさにそれでした。

普段は気にしないような時計ひとつの存在、施設内の空気、担架で運ばれていく姿──。そのすべてが、人生の時間には限りがあるという当たり前のことを、改めて胸に刻んでくるようでした。

■荷物の搬入先・猪名川町で感じたこと

新居は猪名川町。川西市からそこまで遠くはありませんが、自然がぐっと近づき、空が広く感じられる場所。

部屋の窓を開けると、静かで落ち着いた空気が流れていて、川西の介護施設で見た光景とはまったく別の世界が広がっていました。

荷物を丁寧に配置し、使いやすいように動線を考えながら作業を進めていく。この一つひとつが、その方の「これからの時間」を支えるための仕事です。

介護施設からの引越は、新たな生活への一歩という意味もあれば、ご家族や本人の決断が詰まっているものでもある。私たちが運んでいるのは、単なる家具家電ではなく、「選ばれた荷物」なのだという意識が、自然と強くなる瞬間があります。

■人生を運ぶ、という感覚

引越業は肉体労働と思われがちですが、実際は心の負担も大きい仕事です。

その理由は今日みたいに、いろんな人生と向き合う場面に出くわすから。

  • 高価な時計をずっと大切に使ってきた人
  • 家族に見守られて暮らしてきた人
  • 警察や救急隊、医師に囲まれる最期を迎えた人

引越現場には、その人が生きてきた道が自然と滲み出てきます。

それを見た時、「荷物を運ぶ」という言葉だけでは説明できない、不思議な気持ちが湧いてきます。

まるで、その人の人生の一部を、私たちの手で優しく次の場所へ運んでいるような感覚。だから、今日の現場は忘れられません。

■最後に

搬入を終え、道具を片づけ、鍵をお返しして、トラックに乗り込む時、ふと深呼吸をしてしまいました。

今日という日は、仕事をしながら、人の人生にふれ、自分の人生についても考えさせられるような、そんな重みのある一日でした。

何も特別なことをしたわけではありません。ただ、引越作業をしただけです。

でも、「働く」という意味を少しだけ深く見つめ直す時間になりました。

ご依頼いただいたお客様、本当にありがとうございました。

いまだ運送は、これからも“モノ”だけではなく、“想い”も運べるような仕事をしていきたいと思っています。

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